2021.06.17 時点の投稿
匿名組合契約約款
- Bankers' wiki
融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)の法的構成を匿名組合契約による場合に、一般の投資者がファンドの出資持分の発行会社との間で締結する投資契約の内容をあらかじめ画一的にまとめたものを「匿名組合契約約款」や「匿名組合約款」と呼ぶ。
約款
契約を締結する際、当事者間でその決まりごと(契約条項)を書面や電磁的方法でまとめることになり、その契約が一対多数で締結される場合、画一的な内容でもって速やかに締結するため、契約条項はあらかじめ用意されることになる。
ここでいうあらかじめ画一的な内容で用意され締結される契約を「約款」という。
約款による契約の例
・ 生命保険・損害保険(保険約款)
・ 銀行取引(銀行取引約款、インターネットバンキング約款)
・ 郵便の利用(内国郵便約款など)
・ 鉄道の利用(旅客運送約款)
匿名組合契約と融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)
通常、匿名組合契約は、「当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約すること」で締結される(商法535条)。
融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)の法的構成を匿名組合契約による場合、一般投資者は貸金業者による融資事業を「営業」として出資をし、融資先から支払われた利息の中から利益等の分配を受けることになる。
ここで、利益等の分配について一般投資者間の公平な取扱いを担保するため、匿名組合契約はあらかじめ画一的な内容で用意された約款によって締結されることになる。
定型約款
定型約款とは、2020年4月に施行された改正民法において導入された概念であり、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者(「定型約款準備者」という。)により準備された条項の総体」をいい、ここでいう「定型取引」とは次の要件を満たすものをいう(民法548条の2第1項柱書)。
① 【不特定多数要件】定型約款準備者が不特定多数の者を相手方として行う取引
② 【画一性要件】その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの
このうち②画一性要件については、定型約款準備者と不特定多数の者とが同一の内容で契約を締結することが通常であり、かつ、双方にとって交渉を行わず定型約款準備者が準備した契約条項の総体を受け入れて契約を締結することが取引通念上合理的であるかどうかで判別されると解される。
融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)と定型約款
一般投資者を対象とする金融商品取引は、同一の内容で画一的に契約を締結することが合理的であり、一般投資者間の公平な取扱いを担保する趣旨でも当事者双方にとって交渉を行わずに定型約款準備者が準備した契約条項の総体を受け入れて契約を締結することが取引通念上合理的と考えられる。
このため、金融商品取引約款も定型約款に該当するものと考えられる。
融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)では、ファンドの事業を行う者が約款を準備し、一般の投資者=不特定多数の者を相手型として取引が行われることになる(=①当事者要件)。
また、金融商品取引として一般の投資者を対象とし、一般投資者間の公平な取扱いを担保する趣旨から契約内容が画一的であることが双方にとって合理的なものといえる(=②画一性要件)。
このように、融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)も金融商品取引として不特定多数要件・画一性要件の双方を満たすと考えられるため、融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)が匿名組合契約によった場合、その約款も定型約款に該当することになると考えられる。
定型約款に関する法規制
契約が定型約款によった場合、主に次のような規制に服することになる。
みなし合意(民法548条の2第1項)
通常、契約は、その内容を示してその締結を申し入れる意思表示(申込み) に対して相手方が承諾をしたときに成立する(民法522条1項)。
これに対し、定型約款による契約では、定型取引合意があり、かつ、次のいずれかを満たすときに、定型約款に含まれる個別の条項に合意したものとみなされ、契約が成立する(民法548条の2第1項柱書)
① 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき(同項1号)
② 定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき(同項2号)
不当条項の排除(民法548条の2第2項)
民法548条の2第1項の要件を満たす場合であっても、定型約款の条項のうち「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則(信義誠実の原則)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」は、合意をしなかったものとみなされる(民法548条の2第2項)。
定型約款の表示(民法548条の3)
定型約款準備者は、「定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で定型約款の内容を表示しなければならない」とされている(民法548条の3第1項)。
なお、この開示請求に対する開示義務は、「既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたとき」には適用されないとされている(民法548条の3第1項但書)。
ここにいう「相当な方法」とは、書面や電磁的記録(メールなど)で提供するほか、定型約款準備者のWebページに掲載する方法が考えられる。
定型約款の変更(民法548条の4)
通常の契約においてその内容を変更するには、当事者間の合意が必要とされている。
これに対し、定型約款の変更については、次のいずれかの場合であれば、当事者間の個別の合意を取り付けることなくその内容を変更することができるものとしている(民法548条の4第1項)。
① 変更が顧客の一般の利益に適合する場合
② 変更が契約の目的に反せず、かつ、変更に係る諸事情に照らして合理的な場合
なお、これらの場合であっても定型約款の変更には「その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知」することが必要とされ(民法548条の4第2項)、その周知は「効力発生時期が到来するまでに」行う必要があるとされている(同条3項)。
このため、融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)においても、変更内容が①・②のいずれかにあたる限り、手続上、事前の周知を行うことでもって、一般投資者との間で締結された定型約款による投資契約の内容を変更することができる。
【BankersNote編集部】
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